人類圏より

「腕」2

ある日私が目を覚ましたら
腕だけになっている自分を発見した
目も耳も三半規管も無くなっており上も下も判らない
皮膚に当たる冷たい金属の感触をたよりに
指を使って何時間も這い回り
ようやくここが金属製の箱の中であると理解した
箱の端に部品のような複雑な形状の物があった
きっとこれは金庫の鍵の一部なのだろうか
四隅にある細い溝はところどころ溶接してあるかのように盛り上がっている
金庫ならなんと粗雑な造りだろうか、それともここは只のロッカーの中か
耳が無いので誰かがそばを通ってもこれでは気が付かないではないか
とても静かだ。
指の爪は少し伸び気味で、ところどころに焼けた針で刺したかのような穴が開いている
私は何度も指で触って右手中指の中ほどに輪のように皮膚の感覚が
全く無い領域があるのに気が付いた
ここに何があったのだろうか。
手首の少し下から何本もの皺だらけの管が伸びて小さな箱に繋がっている
同じように皺だらけの箱には皮膚感覚はなく、かなり重かった
箱は約1分間の周期で熱くなり、私はそれを50まで数えた後
数えるのを止めた・・・




戻る