人類圏より

「箱」

都市は食料を生産できなかった
しかし「箱」は人間を飢えさせる事は無かった

都市は疲労を癒せなかった
しかし「箱」は疲労を霧散せしめた

都市は夜の到来を防がなかった
しかし「箱」は睡眠を過去のものとした

都市は知識を生産できなかった
しかし「箱」は人間に言葉を与えた

都市は人間を生かすことは出来なかった
しかし「箱」は人間を誰も死なせなかった

かくて人間は、食べずとも飢えることは無くなり、疲れることなく働き続け、眠る必要も無く、全てを知り、永遠に死ななかった

しかし「箱」は壊れていた

人の造る物は人に似る
人間は、食べねば飢え、働けば疲れ、夜毎に眠り、何も知らずに死んでゆく

ある日、壊れた箱の隙間から人間達が逃げ出していった
食べずとも飢えず、疲れることなく働き続け、眠る必要も無く、全てを知り、永遠に死なない世界から
食べねば飢え、働けば疲れ、夜毎に眠り、何も知らずに死んでゆく世界へ・・




戻る